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【TYPE10】呪い




主人公:ネージュ(女)

サリュ(男)

パトレ(女)

ラメリゼ(魔女)




レメンタ国は、国土は小さいが肥沃な土地を持ち、農作が盛んな国である。
多くの国との交易で資金は潤沢にあるため、常に侵略の脅威に晒されていた。
だが、レメンタ国には、「リグレ一族」と呼ばれる民族がいて、小さな自治区を持っていた。
リグレ一族は、腕と足が青い鱗に覆われていて、指先には長く鋭い爪が生えている。
高い魔力と独特の武術を持ち、レメンタに侵略を試みた国は、全てリグレ一族によって退けられていた。

レメンタ国の王家とリグレ一族とは、古くからの盟約により、互いの長子が異性ならば伴侶に、
同性ならば兄弟の契りを交わすこととなっている。

レメンタ国の長男に生まれたサリュと、リグレ一族の長女に生まれたネージュは、生まれると同時に結婚の儀式を行う。
ネージュは、リグレ一族によって魔術と武術をたたき込まれ、サリュとレメンタに仕えることを第一とするよう教育された。
ネージュは、レメンタの国民をおびえさせない為に、肌を出す事を禁じられ、常に手袋を着用していた。

サリュが20歳、ネージュが14歳の時に先王が亡くなり、サリュがレメンタの王となる。
それから5年。

◆ネージュは、他には替えがたい「大切なもの」を持っている。
それは、夫のサリュ。
ネージュはサリュに献身的に仕えるが、それは儀礼的なもので、暖かみのないものだった。
サリュは愛人のパトレの元に入り浸るが、ネージュは「国政さえおろそかにしなければいい」と、
相変わらず形式的にサリュの世話をしていた。

◆ある日、サリュが眠ったまま目覚めなくなる。
医者も原因を突き止められないなか、ネージュはそれが呪いである事に気付く。
そして、レメンタ国北部の山に住む、ラメリゼという魔女が、ネージュに会いに来た。
ラメリゼは、「自分がサリュに呪いを掛けた」と言う。
今すぐ呪いを解かなければ、レメンタとリグレを敵に回す事になると警告するネージュに、
ラメリゼは、自分を殺しても、呪いは解けないと返す。
「あなたには子どもがいないでしょう?ネージュ様。王がこのまま目覚めなければ、王家の血筋が絶えるになるのよ?」
そして、ラメリゼは取引を持ちかける。
自分は美しいものが好きだ、だから、この国で最も美しいものを持ってこい。そうすれば王を目覚めさせると言う。

◆「あの太陽が7回沈むまで。それが期限。それを過ぎたら、王は永遠に目覚めぬまま」
ラメリゼはそう言って、自分の館に戻っていった。

◆ネージュは立ち上がり、サリュを目覚めさせる為に、「この国で最も美しいもの」を捜す事にする。
まずは城の宝物庫に行き、全ての宝石や装飾品、豪華な織物などを運び出させる。
それをラメリゼの館に持っていき、「どれでも好きなものを選べ」と言う。
だが、ラメリゼは笑って、「こんなものは見飽きた」と言った。
「財宝なんて沢山。私が欲しいのは、この世に二つと無い美しいもの」

ならばと、古代の遺跡から発掘された品や、レメンタが所蔵する希少本、更に、リグレ一族が鍛えた武具なども持っていくが、ことごとく一蹴される。
「何が望みだ」と苛立ちをぶつけるネージュに、ラメリゼは笑いながら、「脆く、儚く、だからこそ美しいもの」だと答える。

城に戻り、サリュの部屋を物色していたネージュは、パトレからの手紙を発見する。
情熱的な文句の連なる手紙には、パトレの妊娠を匂わせる言葉が書いてあった。
パトレに会いに行くネージュ。
不敵な態度でネージュを迎えるパトレ。ネージュは手紙を見せ、「陛下の子を宿しているのか」と聞く。
パトレは笑って、「貴女に王妃の資格はないわ」と言い、自分の腹を愛しそうに撫でながら、
「この国も、陛下も、私とこの子のもの。貴女には王位継承権もない」と言う。
もう一度、子を宿しているのかと聞くネージュに、パトレは笑みを浮かべて、
「貴女、まだ処女なんでしょう?」
次の瞬間、ネージュはパトレを床に組み伏せ、首を締め上げる。
「お前に何が分かる?」
苦痛にもがくパトレに、ネージュは静かに話しかける。
「私は、この国とあの男に人生を奪われた。これ以上、私から奪う事は許さない」
ネージュは、暴れるパトレを易々と足で押さえつけ、両袖をたくし上げ、手袋を外す。
両腕の鱗と長い爪に、恐怖の視線を向けるパトレ。
「化け物・・・」
ネージュは、パトレの言葉を無視し、
「お前の子は、私が預かろう。陛下がこのまま目覚めなければ、次の王となるの
だから」
腕をパトレの腹に差し込む。
ずぶずぶと沈んでいく腕。パトレはかすれた悲鳴を上げるが、ネージュはそのまま腹の中を探り、
「いない・・・ようだが?」
腕を引き抜き、パトレに問いかけた。
パトレはおびえ、「助けて」と繰り返す。事情を話せと求めるネージュに、パトレは泣きながら、「陛下に頼まれた」と話す。
ネージュが会いに来て、子どもの事を尋ねたら、妊娠している振りをして欲しいと言われた、と答える。
何故そんなことを?と聞かれ、パトレは、自分は何も知らない、ただ言われたとおりにしただけと言った。
更に、自分は王の愛人ではない。振りをするように頼まれただけだと言う。
パトレの母は、サリュの乳母をしていた女性の従妹で、父親が事故で亡くなり、
病気がちの母と幼い弟や妹を抱え、途方に暮れた
パトレは、思い切ってサリュに自分たちの窮状を訴える手紙を書いた。
「最初は、本当に愛人になるつもりだったの」
王の寵愛を受ければ、家族を養えると考えたのだ。
だが、サリュはパトレの家族を養う代わりに、愛人の振りをするよう求めた。
「陛下は私の処に来て、ただ話をして帰っていったわ。私に指一本触れたりしていない」
そして、最近パトレに恋人が出来た。弟達も成長して、家族を支えられるようになってきたので、パトレはサリュに、
「結婚したい人がいる」と打ち明けた。
「陛下は、「最後の頼みだ」って言ったの。自分は魔女に呪いを掛けられ、その
まま目覚めないかも知れないって。
10日間待って、ネージュ様が私に会いに来なければ、後は好きにして良いって

サリュが、魔女の呪いを知っていたことにショックを受けるネージュ。
パトレは泣きながら、許して、殺さないでと懇願する。
その様子を、無言で見つめるネージュ。
泣きじゃくるパトレに、ネージュは「邪魔をした」と言って、出て行った。

ネージュはラメリゼの館に行き、「陛下は、呪いを掛けられることを知っていたのか」と聞く。
ラメリゼは、「頼まれた」のだと答える。呪いを掛けるよう依頼してきたのは、サリュだと。
理由を問うネージュに、ラメリゼは「不幸だから」と答える。
その答えに、ショックを受けるネージュ。ラメリゼは、「誰にでも、幸せになる
権利はあるでしょう?」と言う。
もし自分が目覚めなければ、この国がどうなるのかも考えなかったのかと言うネージュに、
「国のために不幸になれと?」と問い返すラメリゼ。
「陛下は、この国の全てに責任を負う義務がある」と返すネージュ。
「王としてはそうですわね。でも、一人の男としたら、どうかしら?」

城に戻ったネージュは、サリュの寝室へ行く。
眠り続けるサリュ。ネージュは無意識にサリュの身体の向きを変え、床ずれが出
来ないようにクッションをあてがう。
ネージュはサリュの顔を見つめ、「陛下は、ずっと不幸だったのですね」と呟く。
「それは、この国の王となったからですか?それとも」
手袋をはめた手で、サリュの頬に触れる。
「化け物を、妻にしなければならなかったからですか?」

◆期限の最終日、ネージュは、サリュの部屋で見つけたパトレの手紙を持って、
ラメリゼの元へ行く。
ラメリゼは手紙を一瞥し、「美しいけれど、まがい物」だと言う。
「陛下の手にあるのは、まがい物ばかり」と笑うラメリゼ。
ネージュは、何故こんなことをするのか、理由が分からないと言う。
ラメリゼは笑って、当然だと言う。陛下自身がまがい物だから、誰も「本当の彼」を知らない、と。
そして、窓の外を示して、今日が最後だと指摘する。
「このままでは、陛下は目覚めなくてよ?」
ラメリゼの言葉に、ネージュは「そのほうがいいのかも知れない」と呟く。
「不幸な現実に目覚めるよりも、幸福な夢を見続けることを、陛下は望んだのだから」
ラメリゼは笑って、サリュがこのまま目覚めなければ、レメンタはネージュのものになる、と言う。
「そのほうが、全ての人にとって良い事ではなくて?」
サリュは甘美な夢に溺れ、ネージュは王国の支配者となり、奪われたものを取り
戻す。
レメンタをリグレ一族が支配してしまえば、同盟も意味をなさないと言うラメリゼ。
「この先、不本意な婚姻を結ぶ必要はなくなってよ?」
「そうかもな」と呟くネージュ。「化け物を伴侶にするなど、ぞっとしないからな」
ラメリゼは、窓から差し込む夕日を眺めながら、「もう城に戻る時間はない」と言う。
「お祝いを申し上げますわ、ネージュ陛下」
「期限切れだな」と言うネージュ。結局、この国で一番美しいものが何か、分からなかったと言う。
ラメリゼは、「最後のヒントを差し上げますわ」と言って、小さな木彫りの指輪を取り出す。
サリュからもらったという指輪を見て、ネージュは幼い頃のことを思い出した。
まだ幼いネージュが、サリュとの結婚に疑問を持たなかった頃。「永遠の絆」の証として、木彫りの指輪を贈ったのだ。
たどたどしい手つきで掘った、不格好な指輪など、とうの昔に記憶から捨て去っていた。

◆「何故お前が持っている?」と問うネージュに、ラメリゼは満足げに、「呪いと引き替え」だと答えた。
「陛下が手にした中で、一番美しいもの」と引き替えだったと答えるラメリゼ。
「陛下が肌身離さず持っていた指輪。彼が手にした、唯一の「本当」」
その答えに、ネージュは「陛下が・・・」と呟く。
そして、暮れていく空を眺めながら、ぽろぽろと涙を流した。

◆声もあげず、指輪を手にしながら、ただ涙を流すネージュ。
その様子を眺めていたラメリゼは、ネージュの涙を指ですくうと、「美しいわ」と満足げに呟いた。
「脆く、儚く、だからこそ美しいもの。この世に二つと無い、美しいもの。これですわ、ネージュ様」
ラメリゼは、ネージュの顔をぬぐって、
「さあ、もうお帰りなさい、嘘つきのお姫様。今度こそ、自分を偽らないで」

◆城に戻ったネージュは、サリュが目覚めた事を知らされる。
「陛下がお探しですよ、ネージュ様」
まっすぐにサリュの寝室へ向かうネージュ。寝間着姿のまま立っているサリュを
見て、後ろ手に扉を閉めながら、「お着替えを」と言った。
「ネージュ・・・」
ネージュは手を挙げて、サリュの言葉を遮り、「陛下は、不幸だったのですか?」と尋ねる。
うなずくサリュ。何か言おうとするのを、更に制して、
「それは、この国の王となったからですか?それとも」
サリュに抱きしめられ、ネージュは言葉を切る。
「私が不幸だったのは、お前を愛していたからだ」と言うサリュ。
「お前に愛されたかったんだ、ネージュ」
パトレを愛人にしたのも、ラメリゼに呪いを掛けさせたのも、ネージュの関心を
引きたかったからだと言う。
「許して欲しい」と言うサリュに、ネージュは、
「・・・化け物を、妻にしなければならなかったからですか?」と問いかける。
サリュはネージュの手袋を外し、その手にキスをすると、
「愛している、ネージュ。お前を妻に迎えた事を、一度たりとも後悔したことはない」
ネージュは、ぽろぽろと涙を流しながら、
「私も愛しています、陛下」
サリュの背中に腕を回し、そのまま泣き続けた。

その後、ネージュは手袋をすることはなく、鱗に覆われた腕を隠さずに人前に出て行った。
人々は、女王の異形の姿に恐怖したが、王自らリグレ一族との友好を深めた為、
リグレの自治区と徐々に交流が始まっていく。

そして、ネージュは懐妊する。
リグレ一族との取り決めを口にするネージュに、サリュは「子どもに決めさせる」と答える。
「回り道をさせることはないだろう。私たちのように」
そう言って、サリュはネージュに愛情を込めたキスをした。