 |
降りしきる雨の中、山奥の大木の根本で事切れた男。
フードを目深に被った人物が、男の側に立って見下ろしている。
男の胸に抱えられた赤子に手を伸ばし、抱え上げた拍子にフードがずれ、
蜥蜴の顔が覗く。
「参ったね。子どもは趣味じゃないんだが」
宗の国の山奥で、ミンジュは妖術師としての修行を積んでいた。
師匠のリャンメイは、蜥蜴の顔をした女で、ミンジュにとって育ての親だ。
ミンジュは、黒髪に青い目をしている為、
人里に降りるときは、必ず妖術で姿を変えるよう、言いつけられている。
青い目を人に見られたら、捕らえられ、見せ物にされるよと脅されていた。
◆ミンジュは、他には替えがたい「大切なもの」を持っている。
それは、宗の国の皇女、リイファ。
師匠の用事で里に下りてきたとき、こっそり城を抜け出していたリイファと出会い、
仲良くなったのだ。
リイファもまた、同じ青い目をしていることと、
同年代の子が周りにいない境遇に、ミンジュは親近感を抱く。
ミンジュは、リイファには自分の青い目を見せていた。
リイファに、「初めて出来た友達」だと言われ、喜ぶミンジュ。
リャンメイの言いつけで人里に来たときは、こっそり城に忍び込み、
リイファと遊んでいた。
◆ある時、ミンジュが城に忍び込んでリイファを捜していると、
とある部屋から話し声が漏れてくる。
好奇心から耳をそばだてるミンジュ。その内容は、リイファ暗殺計画だった。
次の豊穣の祭の際、リイファは「神」に奉納される。
当然、形式だけのものだが、奉納の際、リイファは祠に残され、
迎えが来るまで一人きりになる。
その時を狙って、命を狙うと言う。
驚くミンジュ。こっそり部屋の中を覗くと、
そこには将軍のシャオヤオと、鰐顔の男がいた。
◆ミンジュは早速リイファに話すものの、リイファは笑って取り合わない。
シャオヤオ将軍は忠義に厚く、国の為に自分の身を捨てる事さえ厭わない人だ、
と言う。
更に、豊穣の祭の時に、将軍に引き合わせてあげる、
会って話せば、将軍がどういう人か分かると言うリイファ。
ミンジュは、必死になって自分が見た事を話すが、
鰐顔の男なんているわけがない、夢を見たのではと笑われる。
自分の師匠は蜥蜴顔だと言いそうになって、
リャンメイのことは秘密にしていた事を思い出すミンジュ。
それだったら、さっきの部屋に行って確かめようと主張し、
リイファは仕方ないという顔で、ミンジュについていった。
シャオヤオは鰐顔の男、グラウと話をしていた。
「ま、俺のほうはかまわねえよ」
グラウは、盛大に煙草の煙を吐き出しながら、俺は子ども好きだからな、と笑う。
意外だな、というシャオヤオに、グラウはにやりと笑って、
「なんたって、肉がジューシーだからな」
ミンジュとリイファがこっそり部屋を覗くと、
部屋の中で書類を整理していたシャオヤオに見つかる。
何をしているのかと問われ、リイファが暗殺計画を話しそうになるが、
ミンジュは慌てて「かくれんぼだ」と答える。
鬼は誰なのかとつっこまれて、言葉につまるミンジュ。
あまりいたずらをしないようにと言われ、
ミンジュはリイファを引っ張ってその場を立ち去った。
鰐男はいなかったねと笑うリイファ。
だが、ミンジュは、シャオヤオの部屋に煙草の臭いが残っていた事を考えていた。
シャオヤオは煙草を吸わない。
確かに、あの場に将軍以外の誰かがいたのだ。
◆豊穣の祭が間近に迫ってくる中、
ミンジュは修行に身が入らず、リャンメイに怒られる。
「そんなに祭が楽しみなのかい?」と聞くリャンメイに、
ミンジュはたまらず、リイファ暗殺計画を話してしまう。
リイファの事はリャンメイに秘密にしていたため、
口が滑った事を慌てるミンジュ。
だが、リャンメイは、とっくにリイファとの事を知っていた。
どうするのかとリャンメイに聞かれ、
ミンジュは、リイファは自分にとって初めての友人だと言う。
「守りたいんです。どんなことをしても」
ミンジュの真剣な顔に、リャンメイは溜息をついて、
「止めはしない」と言う。
「止めたところで、勝手にするだろうからね」
ミンジュは、鰐顔の男に心当たりはないかと聞くが、
リャンメイは知らないと言う。
そんな種族もいるかも知れないが、眷属ではないと言った。
そして、リャンメイはミンジュに一枚の札を渡す。
お守りだと言うリャンメイに、ミンジュは感謝する。
リイファは、祭の衣装をミンジュに見せながら、
奉納されている間は、祭見物が出来ないとこぼす。
「毎年、戻ってきたら花火が終わってるのよ」
シャオヤオにお願いして、早めに迎えに来てもらおうかと言うリイファに、
ミンジュは一つの提案をする。
豊穣の祭の衣装は、顔をそっくりベールで覆ってしまう。
リイファとミンジュは背格好が似ているので、途中で入れ替わろうと言った。
驚くリイファに、ミンジュは「将軍を驚かせる為のいたずら」だと言う。
その間、リイファは祭を見学していればいい、と。
最初は渋っていたリイファも、
ミンジュがリャンメイに連れられて見物した祭の様子を話す内に、
すっかり乗り気になり、
後で一緒に将軍に怒られればいいわね、と笑う。
豊穣の祭に使われる祠の前に立つグラウ。
薄暗い洞窟の中、簡素な祭壇が供えられていた。
この場で、リイファは小一時間ほど一人になる。
煙草をふかしながら、洞窟の大きさを確かめるグラウ。
背の高さほどもある巨大な鎌で、天井をつつきながら、
崩れる心配はなさそうだと笑う。
「これなら、派手に暴れられそうじゃねえか?なあ、リャンメイ」
にやにや笑うグラウの後ろで、リャンメイは無言で札を洞窟内の壁に貼っていた。
◆豊穣の祭当日。
ミンジュは奉納の儀式を待つリイファの元へ行き、お互いの衣装を交換する。
無邪気に喜ぶリイファに、ミンジュは気をつけるように言う。
「祭見学の最中に、襲われたりしないようにね」
リイファは笑って、花火を見たら帰ってくると約束する。
ベールを被ったミンジュは、侍女達に促されるまま輿に乗り、奉納の儀式に出る。
祭司や巫女、兵士達に付き添われ、ミンジュは祠へと連れられる。
祭壇の前に一人残されたミンジュは、懐から短刀を取り出し、握りしめて待った。
松明の明かりが揺れる洞窟内。息を潜めて揺れる影を見つめるミンジュは、
不意に気配を感じて振り返る。
シャオヤオがゆっくりと洞窟内に入ってきて、無言で剣を抜いた。
ミンジュは短刀を袖に隠しながら、胸元に持ってくる。
シャオヤオが地面を蹴り、間合いを詰めてくる。
あまりの早さに反応できないミンジュ。
振りかぶった剣に、思わず目をつぶると、いきなり耳障りな金属音が響いた。
「おいおい、いくら何でも焦りすぎじゃねえか?ま、俺はかまわねえけどな」
聞き覚えのある声に、ミンジュが目を開けると、シャオヤオの剣を鎌で受け止め、
にやにや笑っているグラウの顔が見えた。
何故止めた、と迫るシャオヤオに、
グラウは煙草の煙を吐き出しながらにやにや笑って、ミンジュのベールをはぎ取る。
ベールの下のミンジュの顔に、驚くシャオヤオ。
ミンジュはグラウの手を払って、あんたの計画はお見通しよ!と叫ぶ。
「鰐と組んでリイファを殺そうとしたんでしょ!!全部知ってるんだから!!」
叫びながら、短刀を振り回すミンジュ。
「鰐じゃなくてグラウだぜ、お嬢ちゃん」
グラウは、ミンジュから楽々と短刀を取り上げると、
お前の弟子は生きが良いな、と笑う。
グラウの背後から現れたリャンメイを見て、ミンジュは驚く。
様子を見に来たというリャンメイに、ミンジュは、
「こいつらがリイファの命を狙っている」と言う。
リャンメイは「知ってる」と答え、ミンジュはショックを受ける。
師匠もこいつらの仲間か、自分をだましたのかと責めるミンジュに、
リャンメイは壁の松明を取り、貼っておいた札を見せた。
「これが何の札だか分かるかい?」
「防・・・魔防壁の札、ですが」
それがどうしたのかと聞くミンジュに、リャンメイは、つかまっていろと言う。
「衝撃までは防げないからね」
リャンメイの言葉と同時に、洞窟が激しく揺れた。
驚いて悲鳴を上げるミンジュは、衝撃で身体が飛ばされ、壁に激突しそうになる。
グラウは寸前でミンジュの身体を抱きとめると、
「随分派手好きじゃねえか」と笑う。
地面に伏せ、何が起きたと言うシャオヤオに、リャンメイは、
「あの子にとっても、丁度良い機会だから」と言う。
「あたしらを一網打尽に出来るからね」
利用されちまったぜ、とげらげら笑うグラウ。
どういうことかと問うミンジュに、リャンメイは懐から鏡を取り出す。
自分の目で確かめてごらん、と言われ、ミンジュが鏡をのぞき込むと、
そこには、祭の広場に立つリイファの姿が映っていた。
周囲に人垣が出来る中、リイファは、色の付いた砂で地面に模様を描いている。
驚くミンジュ。だが、リイファの足下に描かれた模様を見て、全身が総毛立つ。
それは、蛇を表す忌文字であり、邪霊を召喚する術だった。
ミンジュは、自分の見ているものが信じられなかった。
だが、次の瞬間リイファが顔を上げ、鏡越しにミンジュと目が合う。
そして、にたっと笑った。
はっとするミンジュ。
リイファの足下から青白い光が吹き出し、無数の蛇へと姿を変える。
青白い蛇は、牙をむいて見物人に襲いかかり、周囲から悲鳴がわきあがった。
蛇は、人々の肉をむさぼり、血を啜り、骨をかみ砕く。地面にこぼれた血まで、
他の蛇が舐めとっていった。
地獄絵図と化した広場の中心で、高らかに笑うリイファ。
その様子に、ミンジュは言葉を失う。
ミンジュの後ろから鏡をのぞき込んでいたシャオヤオは、きびすを返して洞窟の
入り口に向かい、グラウとリャンメイに、
「皇女を頼む!」と言い残して、走り去っていった。
◆グラウは鏡をのぞき込みながら、よっぽど腹が減ってたんだな、と笑う。
「いくら俺様でも、この人数は喰いきれねえな」
どうしてこんなことを、と呟くミンジュに、グラウは、
「お前だって、腹が減ったら飯を食うだろ?」と言う。
「選び放題、食べ放題って訳さ」
混乱するミンジュに、リャンメイは、
あの子は人間ではない。蛇精だと話す。
リイファは、生まれてすぐ蛇精に身体を乗っ取られたのだ。
リイファの中の蛇精は、影で人間を喰っていたが、
シャオヤオが自分の正体に気付いた為、最後に食欲を満たそうと、
宗の国の人間を食い尽くすつもりだと言う。
ショックを受けるミンジュ。
ミンジュは、リイファは自分も殺すつもりなのかと聞く。
リャンメイは、黙って洞窟の入り口に視線を向けた。
ミンジュもつられてそちらを見、無数の蛇が入り口にたむろしているのを見た。
「ふさがれちまったな」と笑うグラウ。
「札があるからね。中には入ってこれないよ」と言うリャンメイ。
「どうして・・・」と呟くミンジュ。友達だと思っていたのに、と言う。
リャンメイは、このまま洞窟にいればいい、ほとぼりが冷めたら逃がしてあげるよ、
と言う。
ミンジュは、リャンメイはリイファの正体を知っていたのか、と聞く。
「知っていた」と答えるリャンメイ。
こうなることは分かっていたのか、というミンジュに、リャンメイは
「分かっていたよ」と言う。
それを聞き、怒りを爆発させるミンジュ。
何故自分がリイファと友人になるのを止めなかったのか、とリャンメイをなじる。
おもしろがって見ていたのか、信じていたのに、と責めるミンジュに、
リャンメイは答えない。
黙って煙草をふかしていたグラウは、
「昔っから、甘い奴だからさ」と言う。
「奇跡に賭けたんだろうが?
お嬢ちゃんと知り合うことで、あいつが改心するんじゃねえかってな」
グラウの言葉に、リャンメイは溜息をついて、
「出来ればね」と言った。
「もしかしたら、って思ったのさ。
あの子にとっちゃ、あんたは姉だからね、ミンジュ」
その言葉に驚くミンジュ。
リャンメイは、ミンジュの目は、皇族の証だと言う。
青い目は皇族に伝わるもの。
だから、人前で見せてはいけないと、きつく言い聞かせていたのだ。
それなら、何故自分はリャンメイに育てられていたのかと聞くミンジュに、
リャンメイは、リイファの正体に気付いた者が、もう一人いたと話す。
その男は、リイファに深手を負わされながらも、
まだ赤子だったミンジュを連れて逃げ、山奥で力尽きたのだと言う。
「通りかかったのがリャンメイじゃなかったら、お嬢ちゃんは生きてなかったな」
とグラウが口を挟む。
「ついでに言や、俺様がこうして出てくることもなかったって訳だ。
この国がどうなろうと、関係ないこったからな」
どうして来たの?と言うミンジュに、グラウは盛大に煙を吐き出しながら、
「いい女の頼みは断らねえ主義なんだ」と言った。
ミンジュは、鏡の中をのぞき込みながら、自分には関係のある事だと言う。
だが、リャンメイは首を振って、
「顔も知らない奴の為に、命を捨てるのかい?」と言う。
「こいつらは、あんたが生きてようと死んでようと、構いやしないのさ。
わざわざ助けてやる価値もない」
邪魔をしなければ、リイファだって、わざわざ追ってくるようなことはしない。
何処かで静かに暮らすのが一番だと言うリャンメイ。
「だったら・・・だったら、何で、師匠は、リイファを改心させようとしたのです?」
彼らが助けてやる価値もないのなら、何故?
放っておいても良かったのに、と問うミンジュに、リャンメイは答えない。
その様子に、グラウが、
「部外者の俺が言うのも何だがね」と口を挟む。
「お嬢ちゃんの妹なら、リャンメイにとっては娘みてーなもんなんだよ。
自分のガキを手に掛けられるほど、非情になりきれねえってこった」
グラウの言葉にショックを受けるミンジュ。そうなのかとリャンメイに聞くが、
リャンメイは黙って首を振る。
グラウは煙草の煙をはき出しながら、
「伊達や酔狂で片づけられるほど、軽いもんじゃねーだろ?お二人の関係はよ」
リャンメイは目を閉じ、
「あの子が穢れていくのが、耐えられなかった」と呟く。
「あの子の手が、顔が、血に染まっていく・・・
血の臭いが染み付いていく・・・
それが耐えられなかった」
そう言ってから、首を振り、後の事は任せな。今の話は忘れなさい、と言う。
◆ミンジュは鏡を見つめながら、確かに、自分は彼らに何の義理もない、と言う。
「でも」と続けるミンジュ。
グラウはにやにや笑いながら、リャンメイは無表情に聞いている。
「師匠が言ったじゃないですか。どうして私を育ててるのか聞いた時。あの時、
「あんたが目の前で助けを求めていたから」って。
「それだけ」って。言ったじゃないですか」
黙って首を振るリャンメイに、ミンジュは真剣な顔で、
「私は、あなたの娘です」
溜息をつくリャンメイに、グラウは煙草をふかしながら、
「頑固なところは、お前にそっくりだ」と笑う。
リャンメイは諦めたように首を振って、
「ついておいで」と言うと、洞窟の入り口へと向かう。
青白い蛇達が鎌首をもたげるが、
リャンメイは意に介さず、蛇の群れに足を踏み入れた。
ミンジュは慌てて駆け寄るが、蛇達は大人しく道を空ける。
振り返って手招きするリャンメイに、ミンジュは恐る恐る空いた道を通る。
リャンメイは、ミンジュとグラウが側にきたのを確かめてから、さっと手を振った。
周囲を囲んでいた蛇の輪郭が溶け、一つに混ざり合い、巨大な竜の姿になる。
三人は竜の背中に乗り、空へと舞い上がった。
◆広場についたシャオヤオは、苦戦を強いられていた。
多くの兵が駆けつけたが、蛇は剣や鎧を素通りし、皮膚に直接牙を立てる。
死体の山が築かれては、蛇達がむさぼり尽くす。
広場の中心で、楽しげにその様子を眺めるリイファの足下から、
次々に蛇が溢れだしていた。
リイファに近寄ろうとするも、蛇に群がられて身動きの取れないシャオヤオ。
悔しさに唇を噛むシャオヤオの耳に、突然ミンジュの声が飛び込んできた。
「本日は晴天なりー!!」
驚いて空を見上げると、巨大な竜の背に仁王立ちになったミンジュが、
拡声器片手に手を振っていた。
あまりの馬鹿馬鹿しい光景に、呆然としながらも手を振り返すシャオヤオ。
ミンジュは、再び拡声器を口元に持ってくると、
「正直、自分の責任とか、義務とか、そんなの良く分からないし、
皇女だって言われても、ぴんとこない。
そんな柄じゃないし、国の為に命を捨てろって言われたら、多分無理。
私には、妖術師の方が向いてるんじゃないかって、真剣に思う。でも」
そこで言葉を切ると、ぐいっと目をぬぐってから、リイファをにらみつけ、
「あんたのことは許せない、リイファ」
ミンジュは、懐からリャンメイの鏡を取り出すと、
「だから、あんたの正体暴いて、徹底的に叩きのめしてやる!!とおっ!!」
いきなり竜の背から飛び降りるミンジュ。
同時に、グラウとリャンメイも空中に身を躍らせた。
「皇女!!」
シャオヤオは叫び、ミンジュの元へ駆け寄ろうとするが、蛇に足を取られてしまう。
その間も、ミンジュは猛スピードで落下していく。
真下にいるリイファに視線を合わせるミンジュ。
リイファは、落下してくるミンジュを見上げながら、にたにたと笑っている。
「覚悟!!」
そう叫んで、ミンジュはリイファに鏡を向けた。
鏡からあふれ出た光が、リイファを包む。
直後、爆音と共に煙が吹き出し、爆風がミンジュの体を再び宙に舞上げる。
きりもみして落下するミンジュの体を、グラウが軽々とキャッチし、
「なかなか粋な演出じゃねえか」と笑った。
煙が風に散らされ、リイファの姿が現れる。
そこにいたのは、かつてリイファだったもの。
リイファの口から大蛇の首が生え、太い尾が体を持ち上げている。
リイファの体が、大蛇によって串刺しにされたような姿だった。
あまりの異様な姿に、思わず青ざめるミンジュ。
だが、リャンメイから貰った札を取り出すと、リイファに向かって走り出した。
大蛇が口を開け、青白い光線を放ってくるが、リャンメイが手を振ってそれをかき消す。
ミンジュへと群がる蛇は、グラウが鎌の一降りでなぎ払う。
ミンジュは、大蛇の牙から身をかわしながら、リイファの身体に札を貼り付けた。
大蛇は激しく身を震わせた後、砕け散る。
ぐったりとしたリイファを抱き留めるミンジュ。
リイファの体は指先から砂のように崩れていく。
「守ってあげられなくて、ごめん」と言うミンジュ。
残されたリイファの服を、無言で抱きしめた。
そこにシャオヤオがやってくる。まずは礼を言わせて欲しいと言う。
「あなたは、父の汚名を晴らし、敵を討ってくれました。感謝します」
シャオヤオは、自分の父は、皇女殺害の汚名を着て死んだと話す。
「これで、父の無念も晴れましょう」と言うシャオヤオ。
「もうひとつ」と言って、ミンジュに二つの指輪を差し出す。
皇帝と皇后の物だと言うシャオヤオ。
「申し訳ありません。私が気づいた時には、お二人はもう・・・」
指輪を受け取るミンジュは、痛ましげなシャオヤオの表情に笑って、
「見ず知らずの人の死を悲しむほど、感傷的じゃないのよね」と言う。
それじゃあ、私は皇女じゃなくて、女帝だと笑うミンジュを、
リャンメイが後ろから抱きしめる。
「いいんだよ。泣いておあげ。それが一番の供養さ」と言うリャンメイの言葉に、
ミンジュの目から涙が零れ落ちた。
ミンジュは指輪とリイファの服を握り締め、声を上げて泣き続けた。
ミンジュの即位の儀当日。
礼服に身を包んだミンジュは、
「緊張しすぎてお腹が痛い」と騒いでいた。
絶対無理と騒ぐのを無視して、シャオヤオはミンジュを扉の前まで引っ張ってくる。
民衆にお顔を見せてあげてくださいと言うシャオヤオに、ミンジュは嫌だと駄々をこねる。
その時、ミンジュは後ろから抱きしめられ、
「情けないことをお言いでないよ」と言われた。
「あんたは、私の娘だろう?」と言うリャンメイに、ミンジュはこくりと頷く。
「背中は心配しねえでいいぜ。なんたって、最高に強くて格好いい俺様がいるんだからよ」
タバコをふかしながら笑うグラウの台詞に、ミンジュは笑う。
ミンジュは、軽く衣装を直してから、
「よしっ」と言って、シャオヤオに頷いてみせる。
大扉が開かれ、民衆の歓声が響く中、ミンジュは一歩を踏み出した。
それは、後に、大陸最強の妖術師として恐れられ、宗の国の長きに渡る繁栄の土
台を築いた、女帝ミンジュ誕生の瞬間であった。
|
 |