2005上半期あらすじAWARD
本文へジャンプ 2005.6 

 

●作者: S-Taichi


タイトル : トラッシュパーティー(あらすじAWARDラジー賞ノミネート作品)



 現代の若者は限りなく病んでおります。
 常識では考えられない悲惨な事件を次々起こし、大変痛ましい。
 このお話は、そんな若者に対する一つの警鐘とお考えください。
 
 お話の舞台は私立魔境学園及び学園所在地である月宮市です。
不思議な名前の学校ですが、なぜこのような名前になったかは誰も知りません。
学校の雰囲気はすばらしく良好で、皆がのんびりとすごしており、進学率もそこそこ。
どう考えても学校名とは結びつかない校風です。
ただ、地下に一つ開かずの間があります。はるか昔から開かないらしく、生徒も先生
も中に何があるかは知りません。
そのため「開かずの間は魔界の門で、開けると邪悪な魔物が出現し世界に災いが起こ
る。だから魔境学園なのだ」
という噂がありますが、誰も信じてはいません。
 月宮市というのはあまり大きくはない地方都市です。ほとんど特徴はありませんが、
治安の良さだけは全国一位です。
 この学校の高等部に通う戸塚君という少年が物語の主人公です。小学生の妹と両親
を合わせた四人家族で、妹の可愛らしさは近所でも評判でした。戸塚君は妹とは違い、
容貌に特徴の無い平凡な学生ですが、穏やかで少し不器用な性格です。
そのため以前いじめられていました。しかし、魔境学園に進学してからは学校生活を
楽しんでおり、友達もできました。
彼の友人達を紹介しましょう。
 一人は西園寺あやめさん。いわゆる幼馴染でお金持ちのお嬢様です。毎朝戸塚君を
起こしに来てくれるなどという馬鹿なことはしませんが、幼馴染の気安さということ
でいろいろ戸塚君の世話を焼いてくれます。
まあ、世話焼きな性格だからというのも多分にあるのでしょうが…。
 もう一人は岩田剛。名は体を現すとはよく言ったことで、半端ではない腕っ節の強
さと体格を持ち合わせています。
それなのにとても繊細な性格で趣味は読書です。誰に対しても親切で好かれています。
 最後の一人は月島夏美ちゃん。なんと十歳の高校生です。大富豪の娘さんで運動能
力、知的能力ともに天才的だったため飛び級可能で環境のいい魔境学園に転校してき
ました。能力以外に、性格もよく容姿も美しかったためあっという間にクラスの人気
者になりました。今ではクラスのマスコットです。
 上記の四人はいつもいっしょに楽しい学校生活を送っていました。しかし、そんな
中戸塚君がある小さな事件を起こしてしまうのです。
 それは、穏やかな五月の日曜日でした。彼はクラスメイトの葛城千鶴さんに突然呼
び出されます。
何事かと戸塚君が待ち合わせ場所に行ってみると、千鶴さんが真剣な表情で待ってい
ました。おまけに顔を多少赤らめています。
彼はなんとも言えない不安に襲われました。ひょっとして告白されてしまうのではな
いか。そう思ったのです。
嫌な予感は的中します。彼は千鶴さんに告白されてしまったのです。
 しかし、なぜ戸塚君は告白されることが嫌なのでしょう。たいていの人間にとって
誰かから告白されるというのはうれしいものです。
それに、千鶴さんはクラスでも評判の美少女です。彼女は背が高く大人びた風貌です。
雰囲気は少し暗い感じで、無表情、無口です。
孤独が好きな性格なのか、超然として誰とも群れずに一匹狼を貫いているようです。
それが格好いいとクラスの中でも彼女を狙っている男子は多いのです。
逆に女子からは嫌われていて、彼女の正体は魔女で黒魔術の実験をしているなどと、
噂が流れたこともあります。
異性に好かれる人間というのは、同性に嫌われるものなのでしょうね。
閑話休題。みんなが狙っているうえに、孤独が好きな美少女。特別な魅力の無い戸塚
君がまず付き合える相手ではありません。
なぜ、彼女が戸塚君に告白したかはわかりません。おそらく蓼食う虫も好き好きとい
うやつでしょう。
戸塚君が普通の少年なら喜んで告白を受けるはずです。
 ところがそうではありません。戸塚君は穏やかな性格を持つ反面、気弱で臆病な面
がありました。
そのため自分が傷つけられるのを極端に恐れ、他人と深く付き合いたがらないのです。
三人の仲間はそのことをよく知っていたので、彼を尊重して決して深い付き合いをし
ようとはしませんでした。
 そんな戸塚君に千鶴さんの告白はただの重荷でしかありません。それならそれで、
やんわり断ればいいのですが、不器用な彼にはそれもできず、その場を逃げ出してし
まいます。
 取り残された彼女はその場に黙って立っていました。戸塚君の発言に傷ついたので
しょうか。しかし、不思議なことに無表情でした。
傷ついたというよりも何かを考えているかのようです。
 千鶴さんを拒絶した次の日、戸塚は彼女と学校でばったり会ってしまいます。うろ
たえる戸塚君でしたが、彼女はいつものように超然としていて、淡々と彼に言いまし
た。
「気にしてないよ」
 ほっとする戸塚君。危機は去ったのです。
 再び三人の仲間と楽しい毎日を過ごします。
 一ヵ月後、学校で事件が起こります。
 開かずの間が何者かによって開けられたのです。
中には中世黒魔術で使われるような道具が整然と配置されており、その道具に使われ
ている金属が地球上には存在しないことがわかります。オカルトのような展開です。
事件後すぐに恐るべき連続猟奇殺人が発生し始めます。手足をもがれる、内臓を引き
ずり出される、眼球をえぐられる。被害者は百人あまりにも達しようとしており、恐
ろしく残虐な殺され方をしています。
調査の結果、殺人犯は人外の怪物達だということがわかります。怪物は夜行性で、知
能はほとんど無く、群を作らないでただ力にまかせて人を殺しているようです。
事件の唯一の救いは、無残な遺体の状況にもかかわらず、どの被害者も痛みを感じる
暇も無く即死させられていた、という点でしょうか。
 常軌を逸した事件に市民の不安はすでにピークに達していました。魔境学園の学生
達もそれは同様で、開かずの間は本当に魔界の門だったのではないかという噂が広が
ります。
事件に業を煮やした月宮市市長は大胆な作戦に出ます。猟奇殺人犯に莫大な賞金を賭
け、賞金稼ぎに退治してもらおうと考えたのです。
 あっという間に月宮市は賞金稼ぎのたまり場となりました。日夜怪物と賞金稼ぎと
の死闘が続きます。
怪物による殺人に凶暴な賞金稼ぎと月宮市の治安は急激に悪化しました。それでも、
何体か怪物は倒されたのですが、
怪物にも強いものから弱いものまで多種多様であり、いくら倒してもまた新しい怪物
が出てくるので人間側は大苦戦です。
 そんな恐ろしい状況だというのに、しばらくすると怪物が出る夜さえ出歩かなけれ
ば大丈夫と、月宮市民はたくましく日常生活を続けるようになりました。
人間の感覚は麻痺しやすいのかもしれません。戸塚君達四人もそれは同様でした。
 ある休日に四人は公園に遊びに行きます。夕方になり、暗くならないうちに帰ろう
とすると、体調の悪そうな男が近づいてきて、四人に前に倒れこみました。
男を介抱しようと決めた四人。とりあえず、あやめさんが近づいて声をかけました。
 
 その途端、男はいきなり怪物の正体を現すとあやめさんの首を引きちぎり、頭を潰
してしまいました。ぐちゃぐちゃになった首の付け根から血がすごい勢いで噴き出し
ます。
 戸塚君たち三人はショックと恐怖のあまり絶叫します。それを聞きつけたのか何人
か賞金稼ぎがやってきましたが、怪物は相当強くあっという間に皆殺しです。賞金稼
ぎを倒した怪物は三人には何もせずにあやめさんの体を食いちぎり、それをうれしそ
うに見せつけました。
いつもおせっかいを焼いてくれていた幼馴染。けんかしたり、仲直りしたり、数え切
れない思い出が戸塚君の頭をよぎります。
そんな彼女をあの化け物は美味そうに貪り食っているのです。
彼の心の中でナニカがはじけました。自分の臆病さも忘れ、賞金稼ぎ達の死体に飛び
つくと銃を奪い取り、怪物に向かって乱射し始めます。
頭の中は怪物への憎しみで真っ白です。呆然と見ていた剛と夏美ちゃんにも同様の感
情が芽生えました。
二人も叫びながら銃を取り怪物に向かってありったけの弾丸を撃ち込みます。
 油断していた怪物は体がぐちゃぐちゃになりました。臓物がはみ出し、骨が飛び出
ています。しかし、まだ死んでいません。
奴は最後の力を振り絞って、自分に弾丸を撃ち込んだ三人を襲おうとします。とどめ
を刺そうとする戸塚君たちでしたが、弾切れです。
もうだめか、そう思った瞬間怪物の体が四散します。
驚いて周りを見回すと、七人組の賞金稼ぎが白煙たなびくグレネードランチャーを
もって立っていました。
彼らが助けてくれたのです。
戸塚君たちは七人組に礼を言うと襲われた状況を話します。
人間に化ける怪物がいることは彼らにとって新しい情報らしく、感謝した彼らは自分
たちのことを話してくれました。
チームの名前は「ワイルド7」漫画からとったようです。リーダーはなかなか美人の
女性で「D」という通称でした。
バンパイアハンターからとったに違いありません。安易なネーミングセンスと女性
リーダーと根性のなさそうな連中ですが、相当の腕利き集団のようです。
戸塚君は彼らの仲間に加わってあやめさんの敵討ちをしようとしますが、危険すぎる
と断られます。確かに素人が戦っても勝てそうにありません。
戸塚君たちは友達が殺されたのに何もできないのでしょうか。
 いいえ。夏美ちゃんが自分達を襲った怪物の行動と、それまでの事件を起こした怪
物の行動が明らかに違うことに気がついてくれました。自分達を襲った怪物は人間に
化けたり、殺人を見せつけたりといいか悪いかは別として明らかに知性をもった行動
をとっていました。しかし、以前に事件を起こした怪物は無差別にただ人を殺してい
ただけです。知性などありません。
夏美ちゃんはその矛盾を指摘しました。Dに確認してみると、怪物には強いものから
弱いものまで色々いるが、知性を持った怪物は存在しなかったといいました。
 Dの話から夏美ちゃんは怪物に知性は無いと結論付けます。ではなぜ怪物は知性的
行動を取ったのか?
「怪物は人工的に作られ、製作者の指示に従って行動していた」これが疑問に対する
夏美ちゃんの答えでした。つまり、怪物はロボットのようなものだと考えたのです。
ロボットも怪物もそれ自体に知能はありません。ですが、ロボットが入れられたプロ
グラムに必ずしたがって動くように、怪物も製作者の指示に絶対従うように作られれ
ば、どんな行動も作者の考え一つでとらせることができるのです。無差別な殺人も、
特定の人間を襲うことも作者の意のままです。
 もし、それが正しいと考えると怪物は自然発生したのではなく黒幕の人間が作り出
したものだということになります。そして、その人間の意志によって戸塚君達を狙っ
たのです。怪物の製作者は戸塚君たちに恨みでもあるのでしょうか。
もし怨恨が動機で襲われたのなら犯人は十中八九魔境学園の人間です。
学校で自分達を恨んでる人がいるか、心当たりを戸塚君たちは探ります。
 戸塚君は不意に背中が寒くなりました。千鶴さんが言葉とは違って自分を恨んでお
り、仲のよいあやめさんに嫉妬したのではないかと考えたのです。
突飛な考えでした。いつも超然としている千鶴さんが、あの程度のことで自分達を
狙ってくるなど、実のところ彼には考えられませんし証拠もありません。
しかし、他に学校で恨まれる理由が浮かばなかったのです。それに彼女には魔女だの
黒魔術だのと暗い噂もありました。言い方は悪いですが
手っ取り早く疑いやすい人物です。おまけに剛も夏美ちゃんも学校で恨まれるタイプ
ではありません。
二人に恨まれる心当たりがあるかどうか聞いてみても、答えはNOでした。
 ワイルド7が、戸塚君たち三人で学校の調査をすることを勧めてくれました。幼馴
染を殺された戸塚君に同情したのか、黒幕の人間を倒す約束までしてくれます。全く
お人よしな賞金稼ぎたちです。
 戸塚君は証拠が無いので千鶴さんのことは皆に黙って事件の調査を始めました。で
すが、芳しくありません。戸塚君たちを恨んでいる人を見つけるも何も、喧嘩さえろ
くに起こらない能天気な学校です。全く疑わしい人は見つかりません。
やはり、自分か。そう思った戸塚君はに千鶴さんとの出来事を剛と夏美ちゃんに話し
ます。二人は信じられないようでしたが、唯一の容疑者ということで千鶴さんの調査
を開始します。
調査の結果、彼女の両親は貿易会社の社長をしていて、現在外国に行っていること。
そのため、彼女は巨大な屋敷で一人暮らしをしていることがわかりました。
屋敷を張り込む戸塚君たち。彼らは張り込み中にB級娯楽週刊誌の記者と出くわしま
す。その男も屋敷を張り込んでいたのです。
男の話によると、猟奇殺人に紛れて話題にならないのですが、最近幼い少女達が連続
で行方不明になっているようなのです。
その事件に目をつけた記者が調べてみると、どうも葛城千鶴の行動が怪しい。そこで
張り込んでいるのだそうです。
 千鶴さんは本当に魔女で黒魔術を使い怪物を作ったのかもしれない。そして、それ
を少女誘拐の目くらましに利用したのではないか。
そのついでに恨みのある戸塚君を怪物に襲わせたのだ。少女を誘拐した動機は黒魔術
のいけにえにするためだろう。
そうだ、そうに違いない。などと証拠も無いのにどんどん千鶴さんが犯人に思えてく
る戸塚君たち。
異常な事件に巻き込まれナーバスになっていたのかもしれません。
善は急げとばかり、彼らは千鶴さんが留守の日を狙って夜中に彼女の屋敷に忍び込
みます。ワイルド7のメンバーも手伝ってくれることになりました。メンバーの一人
斉藤が探索を手伝い、残りの六人は外で見張りです。手伝いだけでなく彼らは戸塚君
たちに銃まで貸してくれました。
 屋敷の探索はあっさりすみました。地下室に続く隠し扉を夏美ちゃんがすぐに見つ
けたからです。天才はもの探しも早いのでしょうか。
地下室に入ると、そこはまさに地獄でした。行方不明になった少女の腐乱死体が山の
ように積み上げられておりウジがわいています。
思わず絶句する戸塚君たち。やはり犯人は千鶴さんだったのか?そこに静かな声が響
きます。
「何してるのかな?]
驚いて振り返ると千鶴さんが佇んでいました。一斉に銃を向ける戸塚君たち。彼女は
表情一つ変えません。
「お、お前が殺したのか?」
上ずった声で戸塚君が尋ねます。
「私以外に誰がやると思う」
当たり前のような口調で答える千鶴さん。それに神経を逆撫でされたのか、剛が怒鳴
ります。
「怪物もお前が作ったんだな!?」
「それは違うね。私は魔女だからね。孤独が好きなんだ。僕なんて余計なものなんか
作らないよ。ただ、この馬鹿騒ぎに便乗して大好きな子供狩りをしていたのさ。」
「こ、このキチガイ…」
剛君がか細い声で放送禁止用語を言いました。大きな体が微かに震えています。しか
し、彼の言うことはあたっています。千鶴さんは自分を魔女だと思っている狂人のよ
うです。
「魔女になるにはどうすればいいか知っているかな?」
誰も答えません。空気は冷え切っていて、凍りつきそうです。淡々と話し続ける千鶴
さん。
「666人の少女を生贄にささげて儀式を行う。それだけでいい。私は10年前に儀式を
したんだ。
 まあ、修行してなる方法もあるが面倒だ。数十年はかかる。やめとくんだね。魔女
になってしまえばどちらも同じさ。」
夏美ちゃんが不思議そうに聞き返します。
「あの、ということは10年前にはもう魔女になってしまったんですよね」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、なんで今少女を殺すんです。必要ないでしょう?」
千鶴さんは無表情のまま言いました。
「気持ちいいからだよ。最初は生贄にするために殺していたんだが、そのうち殺すこ
と自体が楽しくなってね。
 中毒になってしまったんだ。
 戸塚君に近づいたのも別に彼が好きだったからじゃない。
 彼の妹さんに近づきたかったんだ。彼女かわいいからね…」
そう言うと彼女は始めて微笑みました。その微笑のおぞましさといったらありません。
「もういい」
戸塚君は怒りを必死にこらえて言いました。
「お前を警察に連れて行く。法の裁きを受けて死刑にでもなるんだな」
斉藤が千鶴さんを捕まえようと近づいていきます。さすが賞金稼ぎをしているだけ
あって手馴れたものです。
銃を突きつけたまま隙を見せることなく彼女の手を掴もうとします。そのとき彼女が
優しく斉藤の手を握ります。
次の瞬間、斉藤の手はぐちゃぐちゃにつぶれてしまいました。
ショックで悲鳴を上げることもできない彼に追い討ちをかける千鶴さん。
彼女が軽く指で斉藤の頭頂部から股間までをなぞると、斉藤は真っ二つに割れて臓物
を撒き散らしながら死んでしまいました。
どうも彼女は本当に魔女だったようで、人間を超越した力を持っているようです。 
その光景を見て夏美ちゃんが気絶してします。戸塚君は精神力で何とか耐えます。
あやめさんの敵を討つまで負けるわけにはいかないのでしょう。哀れなのは剛です。
気は優しくて力持ちを地でいく彼は、恐怖のあまり失禁して腰を抜かしてしまいます。
「見苦しいな」
千鶴さんが彼を見てそういうと、彼の体がゆっくりと捻れていきます。痛みに悲鳴を
上げる剛でしたが無駄でした。
見えない力に体を捻り切られてしまいます。彼も無残な死を迎えました。彼の死体に
は一瞥もくれず戸塚君に近づく千鶴さん。恐怖のあまり逃げようとする戸塚君ですが、
動けません。
彼女は戸塚君の頭を優しくなでて言いました。
「人の家に勝手に入った罰だ。君の妹さんを目の前で八つ裂きにしてあげよう」
そのとき、千鶴さんが蜂の巣になりました。血しぶきをあげてがくりと倒れ伏しま
す。助けに来たワイルド7のメンバーがいっせいに銃弾を魔女へ打ち込んだのです。
彼らは死んだ仲間と剛に黙祷すると、生き残った夏美ちゃんと戸塚君を脱出させよう
とします。
「ちょっと待ちたまえ」
死んだはずの魔女がゆっくりと起き上がります。体には傷一つありません。再生した
ようです。
「この程度で私を殺そうとは、なめられたものだ」
そういうとD以外のワイルド7メンバーを一瞬で八つ裂きにしてしまいます。四十個
の肉片が部屋中に飛び散ります。
Dはなぜか気絶させられただけです。一体なぜ。千鶴さんはDをじっと見つめた後、
戸塚君に向かって言いました。
「美しい女性はゆっくり楽しんで殺さないとね。さてとそれじゃ続きにするか。君の
妹さんを連れてくるとしよう」
つまり、異常者の論理ですぐには殺されなかったのですね。優雅に戸塚君に手を振る
千鶴さん。
その胸が突然赤く染まります。気絶から覚めた夏美ちゃんが弾丸を撃ち込んだのです。
「無駄なことを…うぐぅ!」
突然苦しみだす千鶴さん。どうしたのでしょう。たい焼きをのどに詰まらせたので
しょうか?
戸塚君があっけにとられているうちに彼女は塵となり消え去りました。
「あいつに撃ち込んだ弾は特別でしてね。魔力のようなな超自然的力を殺す作用があ
るんです。魔力さえ打ち消せば奴も不死身ではありません。殺せます」
 説明台詞を弱弱しく語る夏美ちゃん。とにかく千鶴さんは死にました。戸塚君たち
は気絶したDを起こすと三人で屋敷を探索し始めます。
探索中、Dは仲間が皆殺しにされたにもかかわらず涙を見せません。心では泣いてい
るのでしょうがそれを見せない賞金稼ぎの精神面のタフさは本当にすごいものがあり
ます。戸塚君は彼女を素直に尊敬してしまいました
 必死に探索したにもかかわらず、屋敷には怪物の影も形もありません。やはり千鶴
さんは怪物を作っていなかったのです。
それでは、怪物を作ったのは誰なのか?全くわかりません。戸塚君は友人や助けてく
れたワイルド7を失ってまで得た結果のあまりの悲惨さに絶望しそうになりましたが、
耐えました。ここで挫けては、殺された幼馴染にもDにも申し訳が立ちません。
しかし、彼らは疲れきっていました。そのためまた調査しようということにして、解
散しました。 
 次の日から怪物は現れませんでした。真相ははっきりしませんが、事件は終わった
かに見えました。
戸塚君は喪失感と疑惑に襲われながらも、千鶴さんが犯人で全て終わったんだと自分
に言い聞かせて、何とか毎日を精一杯生きています。
そんなある日、戸塚君をDが訪ねてきます。開口一番Dは言いました。
「怪物を作った犯人がわかったわ。敵討ちをしましょう」
どうしてわかったのかと問いかける戸塚君。
「簡単よ。怪物は人の作ったものなんでしょう。じゃあ、それを作ることが可能な人
間を探せばいい。
 あれだけのものを作るにはとんでもない科学的才能と財力が必要よ。国家か民間の
研究機関が作った生物兵器という考えもあるだろうけど、
 可能性は低いわね。製造に成功した生物兵器をばらまくわけがないわ」
「じゃあ、まさか個人で作ったのかな」
戸塚君が言いました。
「そのとおり。わかると思うけど、そんな人間日本全国でもほとんどいないわ。でも
ね、月宮市にはいたのよ。
 それができるたった一人の人が」
なぜか嫌な予感に襲われる戸塚君。天才的な頭脳を持って、大金持ち。身近に一人い
るじゃありませんか。
「ひょっとして」
Dは戸塚君をまっすぐに見据えるといいました。
「そう、月島夏美ちゃんよ」
ショックで目の前が真っ白になりそうな戸塚君でしたが、何とか話を続けます。
「そうだな。この町でそんなことができるのは、大金持ちで天才の彼女だけかもしれ
ない。
 しかし、あの子はとてもいい子だよ。とても人殺しなんて」
「あの魔女だって、普段はただの人間に見えたでしょう。見た目にだまされちゃだ
め。天才とキチガイは紙一重ということわざを思い出しなさい。
 幼い子供というのは想像以上に残酷で理不尽なものよ。特にこの狂った現代ではね」
戸塚君は何も言い返せませんでした。逃げ出したい衝動を必死にこらえます。
自分の臆病さに勝たなければ、幼馴染の敵は討てないのです。それにDは仲間が死ぬ
原因を作ってしまった
戸塚君を助けようとしてくれているのです。そんな女性を前に逃げることなど絶対に
できません。
「戦いの準備をするから今日一日だけ待ってくれ。明日の夜には必ず夏美ちゃんの家
に行って真相を確かめる」
彼がそう言うと、Dは納得して帰りました。戸塚君はその後しばらく何か考え込んで
いましたが、どこかに出かけていきました。
さて、次の日の晩二人は夏美ちゃんの家に向かいます。夏美ちゃんの家の周りを一
周して何か作業をしてから、二人は玄関チャイムを押しました。
夏美ちゃんは笑顔で二人を迎えてくれました。
笑顔は純粋そのものです。どう見ても彼女が犯人とは思えない戸塚君ですが、思い
切って聞いてみました。
「Dさんがね。夏美ちゃんが怪物を作ったんじゃないかって言ってるんだけど…」
ふきだす夏美ちゃん。無邪気に笑い転げます。思わず戸塚君も笑います。Dだけは
笑っていません。
そう、こんなピュアな子が恐ろしい怪物を作るはずわけないですよね。ばかばかしい
妄想です。
笑い終わると、夏美ちゃんは急に無表情になりました。目の奥は虚ろで、不快な暗闇
が広がっています。あれ…。
「そうですか。バレてしまったんですね」
硬直する戸塚君。Dは「やっぱりな」という顔をしています。
「で、でもどうして」
戸塚君に訊かれた夏美ちゃんは、目をぎらぎらさせて、手前勝手な事件の動機を語り
始めます。
「理由?ぶち殺したかったんですよ。西園寺あやめをね」
一体どういうことでしょうか?夏美ちゃんとあやめさんは仲良しだったはずです。
「あなたにはわからないでしょうがね。愚鈍な戸塚さん。
 私はあなたが大好きでしてね。
 あなたを自分だけのものにしたかった。独り占めしたかったんですよ。なのにあな
たは私を友達としてしか見てくれない」
戸塚君、夏美ちゃんの突然の発言にびっくりです。彼女の言うことはめちゃくちゃで
す。10歳の少女を友達以外のなんと見ろというのでしょう。
10歳恋愛対象としてみられるのは変態ロリコンくらいです。
「だからね。あなたといちゃつくあやめが憎くて,憎くて仕方が無かったんです」
「それで、怪物を作って彼女を殺したの?」
Dが聞きます。静かな口調でしたが怒りがにじみ出ています。面白そうに夏美ちゃん
が答えます。
「そうでーす。千鶴が戸塚さんの妹を狙って告白したのは知っていたので、
 彼女をスケープゴートにして全部終わらせるつもりだったんですけど…。
 ばれちゃうとはねぇ。ああ残念」
「君が作った怪物のために人がたくさん死んでいるんだよ」
Dの発言を彼女は笑い飛ばします。
「凡人が何人くたばろうが、問題ありませんよ。
 私みたいな価値ある天才だけが生き残ればいい。
 どうでもいい人間は死んだほうが社会のためです。人口問題も解決ですよ。
 あははははぁ」
全く反省の色の無い彼女に戸塚君は逆上しそうになりますが、ぐっとこらえます。こ
こで熱くなっては負けです。
「自首しろといっても無駄だな。スペイン式決闘で決着をつけよう」
彼は、静かに夏美ちゃんに言いました。
「お互いの左手を縛って、残った右手にナイフを持って戦うんだ。君が勝ったら俺は
君のものになる。
 どうにでもすればいい。そのかわり、俺が勝ったら自首して責任を取ってもらうぞ」
夏美ちゃんはニヤニヤ笑っています。
「いいですよ。やりましょう」
 Dが危ないからと止めましたが、彼は聞く耳を持ちません。決闘を開始してしまい
ました。
最初は戸塚君劣勢でしたが、いくら天才といえども10歳です。夏美ちゃんは体力で
は彼に勝てず、肩にナイフの一撃を食らいます。
「俺の勝ちだ。約束は守ってもらうぞ」
 戸塚君は、ナイフを置きました。しかし、どうしたことでしょう。ナイフで刺され
ても、彼女には全く効いていないようです。
それどころか、隙のできた戸塚君の足に思い切りナイフを突き立てます。戸塚君激痛
にのけぞります。
夏美ちゃんが嘲笑しました。
「怪物を作れる私ですよ。自分の体を改造するくらい朝飯前です。私の肉体は強度、
治癒力ともに常人の数百倍なんですよ。さあ、私の勝ちです。
 戸塚さん。私のものになってもらいますよ」
勝利に酔いしれて哄笑する夏美ちゃん。
しかし、それは突然止まり体が痙攣し始めます。
「な、何を」
戸塚は静かに語りかけます。
「君を刺したナイフは、千鶴が少女を殺すのに使ったナイフだ。魔力がこめられてい
るんだよ。
 君が体を強化していることぐらい予想済みだ。俺は昨日彼女の家に君を確実に倒せ
る武器を探しにいったんだ。
 君の肉体も超自然の力には勝てまい」
焦った彼女は怪物を呼び出そうとします。ですが、出てきた怪物は皆体が腐ってお
り、あっけなく崩れ去ってしまいました。
「無駄だ。君の家に入る前に魔女の結界を張っておいた。そいつは特別な結界でね。
 結界内にある科学的人工生命を腐らせてしまうんだ。魔術を使って生まれた人工生
命は別だがな」
戸塚君が説明するうちに夏美ちゃんの体も腐り始めます。生まれて初めての死の恐怖
におびえる彼女に彼は冷然と言い放ちます。
「人工的に強化された肉体にも効果があるらしいんだ。もう助からないな」
「く、くそっ!!あなただけは許しません。いつか必ず生まれたことを後悔させるよ
うな目に」
言い終わる前に夏美ちゃんは腐り落ちてしまいました。悪は滅びたのです。
 翌日戸塚君は空港にいました。Dを見送るためです。彼女は一生遊べるような賞金
を手に入れたのにまだ外国で賞金稼ぎを続けるそうです。
「死んだ仲間のためにも、私がこれを続けないと。
 むこうについたらお土産でも送ろう」
そう言って、お人よしの賞金稼ぎは搭乗口に向かっていきました。
「さようなら、こっちも手紙を送るよ」
戸塚君は思い切り手を振りました。彼女も、後ろ手に手を振ります。二人はそうして
別れたのでした。
不幸にも、二人は邪悪な何者かがその光景をじっと見つめていたことには気がつきま
せんでした。
 一ヵ月後、戸塚君の家に大きな小包が届きます。Dが行った国から届いた小包のよ
うです。
喜んで彼は小包を開けました。中から白い煙がもうもうと出てきました。ドライアイ
スのようです。
生ものが入っているのでしょうか。中のものを慎重に取り出してみます。それは、D
の生首でした。
戸塚君は悲鳴をあげて、首を落としてしまいます。
小包には手紙が同封されていました。
恐る恐る彼が読むとそこには夏美ちゃんの美しい文字で一言こう書かれていました。
「まずは、挨拶代わり」
彼女は死んでいなかったのです。戸塚君は怒りで我を忘れ、手紙を破り捨てます。
「今度こそ夏美を殺す。絶対に殺す」
ぶつぶつと呟きながら武器の準備をします。そこに懐かしい声が響きます。
「ずいぶんと荒れてるね。君らしくも無い」
目の前に千鶴さんが涼しい顔をして立っていました。この化け物も死んでいなかった
のです。
「約束を守りに来たんだ。さあ、妹さんを八つ裂きにしてあげる」
「ちょっと待て」
「おや、妹さんの命乞いなら」
「そうじゃない。この首を見ろ」
そういうと戸塚君はゆっくりとDの生首を持ち上げて千鶴さんに見せました。
「やったのは夏美だ。お前を手ひどい目に合わせた、あいつだ。俺は今からこいつを
殺しに行く。
 お前も手伝わないか。屈辱を晴らせる上に、少女殺しまで楽しめるんだぞ。
 そのあとで、俺の妹を八つ裂きにしても遅くないだろう」
彼は、千鶴さんと夏美さんを戦わせて相打ちを狙う作戦に出たのです。平凡な自分で
はとても二人に敵わない事を彼はよくわかっています。
千鶴さんはそれを見抜いていましたが、リスクを冒しても彼に協力することにしまし
た。自分を痛めつけた美少女を殺せる悦びのほうが大きかったからです。
彼女は慈愛に満ちた微笑を浮かべると、やさしく戸塚君に言いました。
「面白そうだ。手伝おう」

これで、物語は終わりです。この物語に出てきた魔女や狂った天才は実在しません。
しかし、現代社会が作り出す若者の心の闇は、彼女達の残虐性を凌駕しているように
も思えます。
みなさん、どうか心の闇を見逃さないでください。その闇が大きな悲劇を起こさない
よう、われわれは常に注意を払う必要があるのです。



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