どんな人でも、生涯に1本は物語が書けると言われています。でも、多くの人たちはそんなことに挑戦してみようとも思いません。なぜかというと、どうやって書いたらよいのかがわからないからです。

物語を書くなんてことは生まれながらの天才にしか出来ないおそろしく複雑で精緻でほとんど魔術的な精神活動の結果であり、最低でも署名入りの原稿用紙とモンブランの万年筆が備え付けられた静かな書斎が必須に違いない、と人々は固く信じています。

しかし、それは単なる思い込みに過ぎません。

実は、物語には作り方があります。特に「人を楽しませるためのストーリー」にははっきりとしたパターンが存在するので、その方法さえわかれば、誰にでも簡単に作れるのです。

公園のベンチで30分もあれば、安売りチラシの裏側に事務用のボールペンで書き殴るだけで、読者や観客をぐいぐい惹きつけるストーリーが構成可能なのです。

しかも、それはあなただけのオリジナル商品であり、仕入れ原価は0円。在庫調整の苦労もなく、一度作れば何度でも売れる。紙や映像や演劇、ゲームなどへの2次利用もできるし、テキストや音声のデータだけでも流通させられるという魔法のような資産なのです。

また、「物語の技術」は宣伝にも使えます。これは重要です。売り込むための宣伝文案が面白くも分かりやすくもなく、ありきたりで読むに耐えないものだったとしたら、いったい誰がその商品を欲しがるでしょうか? むしろこのスキルを知らずに書いた文章はあなたの商品の価値を下げてしまうかもしれません。

もしかするとあなたの部屋のネタ帳に埋もれているそのアイデアこそは宝の山かもしれません。小説や映画のシナリオ、あるいは漫画の原作になっていれば、来年の今ごろ海の向こうでオスカーをとっている可能性だってあります。

ところが、アイデアの断片のまま放っておくと、いつしか登場人物は忘れ去られ、物語は闇の中に沈んでしまいます。

しかし、思いついたアイデアをいちいち完成品にしていては時間がいくらあっても足りません。

そこで、短時間であらすじに「立ち上げて」おくことをおすすめします。

心の底に沈んだアイデアを引き揚げろ!

あらすじにしてストーリー性をつけておくことで、アイデアは整理され、体系付けられ、常に記憶の中で活性化している状態になります。

完成形が小説であれシナリオであれ漫画の原作であれ、あらすじの段階まで出来ていれば、次の段階に進むのもたやすくなります。

しかも、あらすじは作れば作るほど自分の力になるものです。

1日1本、あらすじを作りましょう。

たった1本のあらすじがあなたを救ける宝の山になることだってあるのです。

一番もったいないのはアイデアを持ちながら忘れてしまうこと。

だからこそ何度でも言います。速攻であらすじにしておきましょう。ストーリーを圧縮し、ストックしておきましょう。

誰かにモニタリングをお願いするときも、長編小説だと嫌がられますが、あらすじなら何本も読んでもらえます。

死ぬ思いをして書き上げた小説。その評価に気を揉みながら半年も待つよりも、あらすじの段階で評判の良いものを次々に小説化していくほうが、はるかに効率的ではありませんか。

これからの世の中、作家といえどもマーケティングは大切です。自分の好きなテーマだけを書くのが理想ですが、実績を出したい人はそんな甘いことを言っていられません。市場のニーズを掴むことは非常に重要です。プロであり続けるとはそういうことなのです。

私が小説のコマーシャルを作る現場に20年間いてわかったことは、いわゆる「売れている作家さん」たちが、どんなに自分の作品のセールスに関して真剣に取り組んでいるか、ということでした。

ベストセラー小説の売上で上位にいる作家ほど、宣伝には厳しい制約を課しています。わざわざ自分で書いたコピーをスタジオにまでFAXしてきたり、世界観を守るために小説本文からの引用しか許さなかったりとその方法は様々ですが、どの作家も非常に神経を使っていました。

中には「全く自由にやってくれていい」という方もいましたが、その作家は、コマーシャル1本ぐらいでは売上にほとんど影響しないほど、強力なマーケティングとセールスのシステムを作り上げていました。

誰でも名前を知っている大作家でも、自著を売り上げるためにものすごく努力しているのです。それがプロの世界です。

もしあなたが漠然と「作家はかっこよくて楽そうでいいな」などと思っていたら、それは大間違いです。昔ならともかく、今は本当に厳しい時代です。1本や2本当てて一生食えるわけがありません。

プロ作家は「物語」というオリジナル商品を売る個人事業主なのです。まずは徹底した生産管理ができなければ成功はありません。なんとなく、ではダメなのです。

1日1本、あらすじを作ることで作品全体のイメージがいったん完成します。あとはその矛盾を修正しながらディテールを詰めていくのです。

探り探り書いていては時間がかかりすぎます。まずはあらすじでイメージを完成させ、あとはいかにそのイメージに近づけていくかということが大事です。

もちろん、趣味や気晴らし、研究目的で小説を書く人は、細かいことなんて気にせずに、思いつくまま気が向くままに書けばよいのですが、そのかわり、そういう作品を誰かが読んでくれると思ってはいけません。

誰かを楽しませることを楽しむ。

あなたが物語を作る意味がそこにあるのなら、あらすじドットコムがお手伝いします。