どんな「効果」を与えたいのか?
ベタな展開はそれなりに素晴らしいものです。形式的には「不幸」と「幸せ」とが交互に訪れて、その間に「転機」となる出来事が挿入されます。このサイクルを繰り返します。例えば『貴種流離譚の成長モノ』だとこんな感じ。
か弱くていじめられっ子だが性格のいい主人公は、実は凄い遺伝子の持ち主で、未覚醒の強大な力を宿していた。しかし、仲間と巡り会ったおかげで主人公の日常は逆転し、時々秘められた力の一端を垣間見せながらも、楽しく暮らすことになる。ところが、ある日、恐ろしい敵が襲ってきて主人公の仲間を殺してしまう。怒った主人公はついに完全覚醒し、敵を葬り去るとともに、正義のヒーローという新たな生き方を選択する。
非常によくある話ですが、もうこれだけで「主人公の成長物語」は出来上がります。型として使う分には必要十分。娯楽の基本パターンです。
しかし、これだけではいかにも型どおりで、完成させても実際にはなかなか目立つことができません。同じ型を使った作品が山のようにあるからです。
では、どうすれば同じパターンでも読者を惹き込む独自の個性を作り出せるのでしょうか?
そのためには、どんな効果を演出したいのかを決めて、基本の型を少し進化させてやればいいのであります。まずはあなたが読者に与えたい効果を選んでください。
簡単に使えてしかも効果的な作戦例として以下の3つを紹介します。
【作戦1】読者をびっくりせる
【作戦2】読者をハラハラさせる
【作戦3】読者をドキドキさせる
仕掛け方は簡単。序盤や中盤で伏線を敷いて、それをクライマックスで回収するだけ。
つまり、気づかれないように手品のネタを仕込み、最後に意外な場所から取り出してみせるわけです。それでは実際にやってみましょう。
※伏線と回収部分を《カッコ》内に入れてみました。
【作戦1】読者をびっくりさせる
逆転やどんでん返しを組み込んで、読者の予想の裏をかく。コツは「Aだと思わせておいてBの方向に進む」こと。いい人だと思っていたら極悪人だったり、意外な人物が真犯人だったり。
アレンジ例:敵のどんでん返しを挿入してみる
か弱くていじめられっ子だが性格のいい主人公は、実は凄い遺伝子の持ち主で、未覚醒の強大な力を宿していた。
《伏線1:いじめられる主人公をいつも優しく励ましてくれるお爺さんがいた。お爺さんは定期的に主人公に簡単な仕事を頼み、お礼にとご馳走してくれた》
しかし、仲間と巡り会ったおかげで主人公の日常は逆転し、時々秘められた力の一端を垣間見せながらも、楽しく暮らすことになる。ところが、ある日、恐ろしい敵が襲ってきて主人公の仲間を殺してしまう。
《伏線2:仲間を失ったせいで以前より孤独を感じるようになった主人公を優しく慰めてくれたのはあの親切なお爺さんだった。お爺さんは自分の養子にならないかと言ってくれた。ところが、お爺さんのある仕草を目撃した主人公は愕然とする。仲間が殺されたあの時、黒衣にすっぽりと覆われて姿を見せなかった敵だが、確かに今のと同じ仕草をしていたのだ!》
《回収:主人公はお爺さんを問い詰める。するとお爺さんは突然襲い掛かってきた。「貴様は我々秘密組織の生み出した怪物だ。いわば私は父親だ。子としておとなしく従え! 長い間お前を殺戮兵器にするために教育していたのだ。人間への憎悪を植え付けるためにいじめさせもした。あと僅かで完成したのに」》
怒った主人公はついに完全覚醒し、敵を葬り去るとともに、正義のヒーローという新たな生き方を選択する。
【作戦2】読者をハラハラさせる
主人公から大切なものを奪い取った上で時間制限をかけることで、読者や観客を焦らせる。全ての登場人物を急がせたり叫ばせたりすることで、迫り来る破滅の予感を過剰なまでに盛り上げるのが重要。
アレンジ例:タイムリミット
か弱くていじめられっ子だが性格のいい主人公は、実は凄い遺伝子の持ち主で、未覚醒の強大な力を宿していた。
《伏線1:遺伝子はクローンで、魔王の魂が転写されていたのだ。ただし、保険用に地獄の泥から作られた肉体はあらかじめ死期を設定されており、契約期間が切れると自動的に消滅することになっている。そして今、その期限が迫っていた》
しかし、仲間と巡り合ったおかげで主人公の日常は逆転し、時々秘められた力の一端を垣間見せながらも、楽しく暮らすことになる。
《伏線2:仲間の友情に支えられて、主人公は命の残り時間を延ばす一か八かの挑戦を始める。ただ、あまりにも時間がない》
ところが、ある日、恐ろしい敵が襲ってきて主人公の仲間を殺してしまう。
《回収:その時、タイムリミットが訪れ主人公の魂は肉体から抜け出るが、心停止した直後の仲間の身体に転移し、思うがままに魔力を使うことが出来るようになる》
怒った主人公はついに完全覚醒し、敵を葬り去るとともに、正義のヒーローという新たな生き方を選択する。
【作戦3】読者をドキドキさせる
誰かの秘密を作り、謎を育てよう。提示された謎が不条理で矛盾していればいるほど、読者はその真相を知りたくてたまらなくなる。好奇心こそがページをめくらせる最高の動機である。
アレンジ例:意外な真相
か弱くていじめられっ子だが性格のいい主人公は、実は凄い遺伝子の持ち主で、未覚醒の強大な力を宿していた。
《伏線1:いつもピンチになると身の回りで不思議な事が起こることに気づく。そんな時、偶然の事故で身体を検査され、その秘密を知る》
《伏線2:だが、どうすればその力を開放できるのかが分からない。それどころか強制的に隔離されてしまう》
しかし、仲間と巡り合ったおかげで主人公の日常は逆転し、時々秘められた力の一端を垣間見せながらも、楽しく暮らすことになる。
《伏線3:いつしか主人公は本当の自分は美しい天使のような存在であると思いこんでいく。いつの日にか背中に美しい白い翼が生えることを信じて……》
ところが、ある日、恐ろしい敵が襲ってきて主人公の仲間を殺してしまう。
《回収:そして主人公にも魔の手が迫った時、主人公は間近で敵の臭いを嗅ぐ。すると抑制されていた本能が呼び覚まされる。主人公は敵の捕食者だったのだ! 仲間を殺された憤りと、自らの浅ましい欲望に驚愕しながら主人公は世にも凶々しい姿に変身していく。これは望んでいた力とは違う!》
怒った主人公はついに完全覚醒し、敵を葬り去るとともに、正義のヒーローという新たな生き方を選択する。
3大作戦のまとめ
そんなわけで、ベタな展開をアレンジして進化させるためには、他の要素との連動が重要です。全ての出来事の因果関係を図表化し、ストーリーを俯瞰的に、そして体系的に捉えてください。
特に気をつけていただきたいのは「主人公は目的を持っているか?」「物語を盛り上げる対立軸はあるか?」「最後に主人公はどう変化するか?」という3点です。面白い物語はこの3つの体系によって編み上げられます。

