今回は、読者を退屈させる「動きの悪い主人公」の秘密についてお話しします。
あなたのストーリーテリングが成功するためには、それほど多くの「斬新な設定」は必要ありません。
ちょっとしたアイデアをエピソードに立ち上げるコツを掴むだけでいいのです。
主人公が能動的なほど、読者からはより高い評価をもらえることになるでしょう。逆もまた然りです。どんなに設定を増やしても、それを主人公の行動に変えられなければ、あなたの物語はいずれ立ち行かなくなるでしょう。
では、どうすれば主人公は充分な行動力を手に入れられるのでしょうか?
主人公が問題を解決するクライマックス
エンタテインメント物語の主題は、主人公が「問題」を「解決」するまでの顛末であります。
従って、最初に手を付けるべきは問題解決の場面ということになります。
まずは派手で壮大なクライマックスシーンを作ることで物語の見せ場を確保しましょう。
とにかく思いつく限りの派手なネタを羅列して一覧表を作りましょう。大風呂敷を広げるだけ広げていいのです。
この着想さえ出来てしまえば、後はこのゴールを目指して作り込んでいけばいいのですから、できるだけ勢いをつけてください。細かい心配は後回しです。
整合性を気にするあまりこじんまりしたネタに終始し、「最後まで書き上げたけどなんだか盛り上がらない話になっちゃったなあ」というのだけは避けてください。
もちろん、最初に考えたクライマックスよりもいいアイデアを思いついたら、その時点でゴールを変更すればいいのです。最初の案は仮であり、あくまでも「最低限の面白さを担保する」ためのものです。
逆に言えば、もっといい閃きを得るための踏み台だと考えて、気楽に「あり得ないよなw」ぐらいの設定をしておけばいいのです。最初の設定はさらなるイメージを引き出すための刺激だと思っておけば、後で変更する際にも割り切りやすくなります。
問題解決を阻め!
問題を設定すると同時に、その解決を阻止する障害をたくさん作ることで、物語を「あり得ない」ぐらい盛り上げましょう。
真面目に考えすぎてはいけません。この時点では無責任でかまわないのです。どんどんやっちゃえばいい。
そのためには、舞台や人間関係、小道具、背景などに時間制限や負荷をかけるのが有効です。
主人公にはこれでもかと言うほどぎゅうぎゅうにプレッシャーをかけてやるといいですよ。
だいたいにおいて、作者というのは主人公に対する追い込みが甘くなる傾向があります。キャラを愛するがゆえに過保護になってしまうのです。親バカみたいなものですが、これでは作品が成熟しません。
主人公というのは痛めつければ痛めつけるほど読者に愛される。心を鬼にして主人公に艱難辛苦を与えることこそが作者の正しい愛情なのであります。可愛い子にはバックパックでヒッチハイクの旅をさせるのであります。
この場合、主人公の性別や年齢、特徴などの個性はとりあえず無視します。むしろ「誰でも困る一般的な悩み」から考えたほうが都合がいいのです。
適当な人物を仮の主人公にして、どんどん難題を設定していきます。絞り込めなければ、主人公候補が複数いてもかまいません。
まずはとにかく誰かに二重三重の苦難を与えることを考えましょう。
例)雪山上の砦。冷酷な責任者の指示でフェンスの扉があと5分で封鎖される。その急な斜面を、怪我した娘を乗せた橇を引いて、父親が登っていく。どうしても砦にたどり着かねば。しかし、後ろからゾンビの集団が迫る。前には腹を減らした野犬の群れが待ち構えている。しかも樹の上から狙撃手が父親を銃で狙っている。父と娘の運命やいかに?
▼主人公の行動の障壁となる登場人物や小道具、それぞれの機能を書いておきます。↓
- 責任者(対立軸A)
- フェンスの扉(舞台のタイムリミット)
- 雪山(舞台の負荷)
- 橇(小道具の負荷)
- ゾンビ(背景のタイムリミット)
- 野犬(舞台のタイムリミット)
- 狙撃手(対立軸B)
障壁が7つ。何だか分かりませんが冥府魔道の地獄絵図です。このぐらい重ねるとやっと緊迫感が出てきますね。
ぴこ蔵なりのサンプルを作ってみましたが、やはりいつものようにゾンビが登場してきます。だからといってゾンビ物限定なわけではありません。単なる個人的嗜好であります。このように、あなたはあなたで自分の嗜好を満足させればいいのです。
さあ、あなただったらこの窮地を、父と娘にどうくぐり抜けさせますか?
条件:7つの障壁を一撃(もしくはできるだけ少ないアクション)で解決し、父と娘は無事に危機から脱すること。
【面白いクライマックスを作るためのヒント】
義務が主人公の尻を叩く
生きている限り、人にはそれぞれ避けて通れぬことがあります。
ご飯を食べなければなりません。そのためには働いてお金を稼がなければなりません。それには他人とうまくやっていくことも必要ですし、学校へ通ったりするのもやむを得ません。
やりたいわけではないのだけれど、やらないと生きづらい。人はそれを義務と呼ぶのであります。
物語の主人公にもこの原則は当てはまります。引きこもっていては何も起きないのです。しかたありません。早速、作ってみましょう。
・主役のキャラが果たさねばならない義務とは何ですか?
この時に、ある程度ドラマティックで大変そうな義務を負わせないと、スケールの小さな話になってしまいます。
はがきを出しに行く、とか、お菓子を買いに出かける、とかでは怠惰な物語になってしまいます。
主人公のやる気スイッチを押す
・最初から最後まで受動的なだけのキャラクターは主人公にはなれません。
スーパーヒーローに救い出されるのではなく、物語のクライマックスでヒーローに変化するのが主人公たるものの条件。その変化のポイントを考えましょう。
主人公は殺されかかる
・いったん死ぬ、ぐらいでピンチとしてはちょうどいい。そんなものは作者ならいくらでも復活させられます。
しかも、誰かのために死ぬことによって問題解決の切り札が発動される、という「読者を感動させる犠牲的精神」の仕組みを作るわけです。さあ殺せ殺してしまえホトトギス。
鑑賞者の「怒り」のトリガーを引く
・敵に卑劣で下劣な行為をさせ、主人公や仲間を侮辱的に傷つけさせる。
これは作者の内側の卑劣な歓びを掘り起こして公開することでもありますから、度胸が要ります。怯む人も多いと思いますが、自分に嘘をついてはいけません。
これで自分の心の中の欲望や黒い願望を直視できない人に面白い話が思いつけるわけがありません。作家になどなれるはずがないのです。頑張って、精一杯酷くて楽しいことを思いついてください。
切り札の一撃で全て解決するための問題を複数作る
・例えば『穴に水が満ちる』ということを切り札にすると決めたら、逆にその切り札で解決できそうな問題をいくつも考える。
- 穴に水が満ちることによって……
・主人公に迫っていた火が消える
・敵が溺れ死ぬ
・障壁となっていた何かが溶ける
・主人公の体が浮く
・脅威となっていた熱を冷ます
・障壁を押し流す
・穴から水があふれる 等々……
以上の解決すべき問題からいくつかを選んで組み合わせ、主人公の危機シーンを作り出す。
さまざまな結果から逆算して「解消されるべきピンチ」のための舞台や小道具、人間関係、背景を設定する。
――そんな感じでいろいろ楽しんで作ってみましょう。場数を踏むほど問題解決が上手になります。
