今回は、面白さを形作る4つめのSについてお話します。
これまでに、Secret、Suspense、Surpriseという3つのSがエンタテインメントの鍵であると言ってきました。分けても最初のSecretは物語の序盤で読者や観客の心を掴むための大きな武器となります。
しかし、同時にSecret(秘密)は大っぴらに見せつけるものではありません。あくまでも謎を生み出すための仕掛けなのです。バレたら終わりです。
つまり読者を引きつけるためには、秘密の内容を教えるのではなく「そこに何か得体の知れない謎がありますよ」と示唆することが大事なのです。
そこで意識してほしいのが4つめのSです。
それは「Strangeness」=奇妙なこと、不思議なことです。違和感と言ってもいいかもしれません。(以後は面倒くさいのでカタカナでストレンジと書かせていただきます)
緊張や衝撃というテンションの高い場面も大事ですが、このストレンジな出来事が物語の中に持ち込む違和感こそは面白さの種であります。ドキドキやハラハラではなくゾクゾクですな。
なんとなく話を聞いていても、ちょっと引っかかることってありますよね。それがストレンジな感覚。解決できない小さな疑問が残るのです。
例えばこんな感じ
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ぴこ蔵「友達と町はずれのホテルのプールに行ったら、奇妙なことに客が誰もいなかったんじゃ」
ブンコ「師匠もアホだなー、ビキニの女の子目当てだな。真夏じゃあるまいし」
ぴこ蔵「うるさいわ。でも、よく見ると一人だけ泳いでいる人がいたんじゃ。男じゃったがの。で、わしらも15分ぐらい水に浸かっておったが、さすがにもう上がろうかってことになった」
ブンコ「バカでも風邪引くよ、いい年なんだから」
ぴこ蔵「そしたらわしらより一瞬前に、もう一人のお客もプールから上がったんじゃ。そんでわしらの5メートルぐらい前をペタペタ歩いていったんじゃ」
ブンコ「ジジイしか来ないからさすがに虚しかったんだろな」
ぴこ蔵「そして先客は更衣室に入っていった。その時じゃ。わしときたらプールサイドにゴーグルを忘れてきたのに気がついてのう、走って取りに戻ったんじゃよ」
ブンコ「なんか危なっかしい話だなあ。濡れたプールサイドを爺さんがへこへこ走っちゃいかんよ」
ぴこ蔵「なんのまだまだ健脚じゃ。ゴーグルを拾い上げたわしは更衣室の前で待っててくれた友達のところまで帰ろうとしてまた振り返った。わしの前には三人分の濡れた足跡があって、一組はわしがUターンした足跡だから反対側を向いとるんじゃ」
ブンコ「まあそりゃそうだよね。……あれ?」
ぴこ蔵「それを見ておったら、ああ、ここで泳ぐのも今年はこれで終わりかなと思うてなんか淋しくなってしもうてなあ」
ブンコ「ちょっと待ってよ師匠、それ何か変だよ……」
ぴこ蔵「何が?」
ブンコ「足跡の数が合わないような気がする……」
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違和感は生じましたか? それはあなたが謎の存在に気がついたということです。
身体の濡れたスイマーが三人登場して、一人がUターンしたのに、足跡は三組しかないわけです。ストレンジですねえ。ゾクゾクしますねえ。
誰でも奇妙な話が大好きです。どうかすると「妙な話なんだけどさ」とか「不思議なことにね」という前フリだけでも飛びついてくれるぐらいです。
あなたの物語も、一度ぜひ「奇妙なことに……」で始めてみてください。つかみはバッチリのはずです。
